■ 特許権を取れば大儲け?

- 特許権の活用の仕方 -



このページの内容

  特許権=経済的利益?

  企業が特許制度を活用する場合の留意点

  個人が特許制度を活用する場合の留意点


 特許権を取るだけでお金持ちになれると思っている人もたくさんいます。しかし、特許権をもっているだけでは収入には繋がりません。


特許権=経済的利益?

 特許権を取るとなんとなく世の中ではお金持ちになれるというようなイメージがあるように思います。「家庭の一主婦が特許権を取って●億円の収入を得た」というような話は必ず一回は聞いたことのある話でしょう。実際、特許権を持っているだけで、家庭の一主婦が●億円もの収入を得ることができるのでしょうか?

特許権で儲かる仕組み

 そもそも特許権というのはどういう権利でしょう。別のところでも書きましたが特許権というのは 発明を独占的に実施できる権利、つまり独占権です。ですから特許権者は自分だけが発明を実施することができて、他の人は実施することができないことになります。一定期間、市場において発明を独占できる結果として経済的利益を手にすることができるというわけです。簡単にいうと特許権で儲かる理由はこういうことになります。

 しかし、この説明はよく考えると少し短絡的です。それはいくら市場を独占できても発明自体の需要が無ければ、つまり誰も発明品を買ってくれなければ利益は上がりません。従って、特許権があっても儲からないということになります。

 例えば、ある製品の需要が0であるならば、その製品に100の特許発明が使われていても経済的価値は0のままです。一方でこの製品の需要が100あれば特許権がなくても100の需要のすべてから利益を得ることができる可能性はゼロではありません。ただ、もしこの需要が100の製品に特許権があれば100の需要から利益を得る可能性が向上するだけです。

 つまり、経済的な価値の本質は発明にあるのであって特許という行政処分そのものにあるわけではないのです。特許は発明者(特許権者)にとっての発明の経済的な価値を高めるオプションのようなものと考えるとよいかもしれません。発明の市場全体から見た価値の総和は特許のあるなし関係なく変わらないと考えられますが、特許は、その発明の価値から得られる利益を発明者(特許権者)に集中させる装置みたいなものなのです。

特許権≠発明の市場での価値

 結局のところ発明が市場に受け入れられなければはじまらないわけです。ところで、特許権が取れるようなすばらしい発明ならば市場のどこかで受け入れられるはずだと考える人がいるかもしれません。しかし、特許権を与えるために行われる審査が保証してくれるものは産業で使える新しくて簡単に考えることができない発明ですよということだけです。発明が市場に受け入れられるかどうかとは無関係ではないにせよこれだけで経済的に価値があるのかどうかは判断できないことはおわかりでしょう。裏返すと特許権をとっても儲からないことも多々あります。

 発明自体が市場に受け入れられるかどうかは特許とは別の次元の問題です。これはある特定の製品が市場に受け入れられるかどうかと本質的に同じ話です。ある製品が市場に受け入れられるかどうかは製品自体の良さももちろん重要ですが、プロモーション活動や販路開拓などような販売戦略も非常に重要です。「特許」とは経営全体の流れの中でうまく繋がってこそその価値を発揮できるものであって、「特許」単独では特別な場合を除いてその効力をあまり発揮できません(ここでは発明を実施することを前提とした効力を言っています。)。そういう点から、「特許」は経営戦略の一手段としてとらえるべきです。個人で発明しようとする人は発明を売り込む会社の事情としてとらえておいて下さい。

特許のメリット

 ところで、市場での独占を得る手段はなにも特許によるものだけではありません。例えば、大幅な量産により圧倒的なコストの削減を図り他社が実現できない低コストにより市場を席巻するというようなやり方もあるでしょう。また、徹底的なプロモーション活動によって、あの製品はあの会社のものに限るというようなブランドイメージを作ることで独占を獲得するような方法もあります。他社のマネの出来ない職人的な技術によって市場を独占することも考えられます。

 では、「特許」という手段を市場独占のために用いる最大のメリットは何でしょうか?それは、上記のプロモーション活動のような経営戦略による市場の独占は自由競争のもとで勝ち得なければならないものであり莫大なコストが必要となる一方、特許権による独占は一定の手数料だけで国が与えてくれるものなので、上記のコストに比較すると圧倒的に低コストで済むということです。もちろん販売戦略等も怠ってはいけませんが一つのマーケットシェアの中でパイの取り合いがなければ楽な展開に持ち込めることは想像に堅くありません。特許制度は国の他の産業保護規制のような特別な業界のものでなく新たな発明をする人すべてに開放されています。国による規制はどんどん取り払われる傾向にありますが、特許による規制はむしろ強化される傾向にあます。特許によるメリットは今後も十分に享受することできるでしょう。

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 特許権とはそれだけで利益を生み出す魔法の杖ではありません。しかし、特許権取得を経営戦略上の一手段ととらえて経営戦略全体の中でうまく位置づけることができれば非常に強力な武器となり得るものです。ですから特許権=経済的利益というのは正しくありませんが、特許権は経済的利益を得る重大なファクターとなりうるこということは言えるでしょう。最初の話に戻りますと、特許権を取った主婦が●億円もの収入を得ることができたのはもちろん特許権を取ったことも重要な要因ですが、発明の市場における潜在的な需要が十分にあったこと、発明を実施した企業がその需要を喚起するために適切な企業努力をしたことといった他の要因も不可欠だったということはもうおわかりだと思います。

 以上のことを踏まえて、次は企業と個人にわけてもう少し特許制度を活用する場合に念頭においておくべきことを考えてみましょう。 


企業が特許制度を活用する場合の留意点 

特許権を活用するときの障壁−利用発明について−

 先の話では、「特許権者は一定期間、市場において発明を独占できるので経済的利益を手にすることができる」というのは少し短絡的だと書きました。それは市場を独占できても発明自体の需要が無ければ経済的利益は手に出来ないからという理由でしたが、実はもう一つ忘れてはならない問題があります。それは、利用発明の問題です。実は特許権があっても市場を独占することは容易ではないのです。

 あたなの会社(X社)が画期的な発明Aをして特許権を取得したとしましょう。大変すばらしい発明なので業界紙なんかに取り上げられるかもしれません。一方、その業界紙を見たS社が発明Aに簡単な機構bを組み合わせたものを新たな発明A+bとして特許権を取得しました(進歩性があれば可能です)。この場合、S社の発明A+bはX社の発明Aの利用発明です。利用発明を簡単に説明しておくと、一方の発明を実施すると他方の発明を全部実施することになるがその逆は成立しない場合の一方の発明を他方の発明の利用発明といいます。S社はX社の許可を得なければ自己の発明A+bを実施することはできません。X社は発明Aを実施することはできますが、特許権が成立しているS社の発明A+bは実施することはできません。X社は発明Aは実施できるのだから問題は無いだろうと思いました。

 ところが、X社がいざ発明Aを使用した製品を作ろうとするとどうしても発明A+bを使わなくてはいけないことがわかりました。こうなると、X社はS社から発明A+bの実施の許諾を受ける必要が出てきます。X社がS社に発明A+bの実施許諾を求めると、S社は発明A+bの実施許諾を認めるかわりにX社に発明Aの実施許諾を要求してきました。結局お互いに実施許諾をすることになって交渉はまとまりました(このように互いに特許権の実施許諾を行うことをクロスライセンスといいます)。

 さて、これでめでたしめでたし・・・・。といけばいいのですが、こうなるとS社とX社は対等ですから、互いに自由競争で発明A(もしくはA+b)から得られる利益を獲得していかなければなりません。S社がX社の実力と同じか下ならよいのですが、S社の方が圧倒的に経営資源を持っている場合、発明A(A+b)から得られる利益のほとんどをS社に持っていかれるかもしれません。X社は画期的な発明AをしてS社はずっと簡単な改良発明A+bをしたのにもかかわらず利益の方はほとんどはS社へいってしまうのは何とも不条理な話です。 

 実際には発明Aの実施品がS社の発明A+bに引っかかることなんてそうはないと考えるかもしれません。確かに、S社だけが発明Aの改良発明を出願した場合はその通りでしょう。しかし、もし、貴方の発明Aが本当に画期的で大きな市場を生み出す見込みがあるならば、何社もが発明Aの改良発明をいくつも出願してくることになります。そうなると、これら何十何百もの特許権に引っかかる可能性は格段に上がります。よしんば、発明Aの実施品はうまくこれらの特許権に引っかからなくても、あなたが実施品を少し改良して売ろうとしたときには、周りはすべて他社の特許権で押さえられていて改良品は売ることができないということになる場合もあるでしょう。

 また、逆の場合も考えておかなければなりません。つまり、X社の発明が別のK社の特許発明を利用している場合です。この場合はX社の発明に対して特許が成立しても。K社の許諾がなければ貴方は自分の特許発明を実施することはできません。実施契約を結んだりクロスライセンスに持ち込めたりできればよいのですが、それは交渉の結果次第でしょう。また、特許庁に裁定をあおいで裁定実施権というものを取得する方法もありますがうまくいくかどうかはケースバイケースです。

 現実に競合する会社が多い製品についてはたくさんの会社同士で製品のあらゆる部分について特許の取り合いが行われています。このような状態になると特許権は市場における独占を実現するためのものという意味合いは少なくなってしまい、クロスライセンス交渉や侵害警告の際に和解に持ち込むための道具としての意味合いが大きくなります。これは本来の特許制度の目的からははずれてしまっていますが、実施を確保するためには特許出願を行わなければならないというような事態は全く特別のものではありません。

特許の観点からみた創業・新規事業展開の方向

 このように競合する会社が多ければ多いほど、特許権は発明の実施を独占することを保証してくれても、発明を使用した製品の独占実施を必ずしも保証してはくれないというとになるのです。以上のことを考えると、これから創業したり新規事業展開をして特許権で利益を得ようと考える企業としては次のことを念頭においておくべきでしょう。

競合者のいない新たな分野を切り開く

 市場規模の大きな既存の分野には多くの企業が参入して、それだけ特許権の取り合いも激しいものがあります。新参者がその渦中に飛び込んで戦うのは大変リスクが大きいということは言うまでもありません。一方で新たな分野を切り開けば市場における先行者利益を得ることができ、さらに、特許権で参入障壁を築くことで有利に展開できます。市場規模の大きくないニッチ産業を創出する際には特許を活用できるかどうかは重要な視点となるでしょう。

複合技術はできるだけ避ける

 ビデオデッキや複写機のような複数の技術の塊で出来ている製品は、それだけ特許権を取ることができる部分が多いので競合が生じやすくなり権利関係の調整も大変になります。最初は特許を取得する分野として単純な技術分野を選択した方が楽です。もちろん複合技術で成り立つ製品の一パーツに特化して特許権を取るのはよいでしょう。 

特許を取る技術分野を絞る

 いろいろと特許出願できるアイデアが浮かんだとしても、その中で自社の強み弱み、外部環境の機会と脅威を分析して本当に実施して成功すると思われるアイデアを特定しましょう。その上で、そのアイデアの周辺を固めていくという方法が良いと思います。特許権はいろいろな分野で散点的に取るよりは一つの分野に集中した方が威力を発揮します。経営資源が十分にあるならばいろいろと手を出しても良いでしょうが、そうでないならば出願の無駄になるでしょう。 

特許管理部署を設ける

 特許権を活用するには出願の他にも他社出願の調査や侵害の排除等いろいろとやるべきことがあります。できる限り、特許を管理する部署を設けるべきです。最初は特許管理担当者を置くことからでもよいでしょう。専任が困難な場合は兼任でもよいでしょう。  

 結局、特許制度を新たに活用しようとする者は、争いを避けて新たな技術で先行者の利益を享受し、自社独自の領域を構築して、これらを特許権で押さえるという方向を目指すべきであると考えてよいと思います。そして、そのような方向を目指すことは特許制度の目的にも沿うものです。

すべてのアイデアを特許出願する必要があるか?

 上でも少し書いていますが、思いつくアイデアを何でもかんでも分野を考えず出願するのはあまり得策ではありません。自社にとって経営戦略上意味のある技術分野に絞って出願を集めるべきです。

 では、絞り込んだ技術分野に関してならすべてのアイデアを特許出願するべきなのでしょうか?予算が有り余っているならばそれもよいでしょうが、通常はそうも行きません。まず、実施する可能性のある発明、画期的な発明であって特許性があるものは出願するべきでしょう。また、特許法37条に定める出願の単一性の条件に違反することがなければ複数の発明を一つの願書で出願することができるので可能な限り出願をまとめると費用の節約になります(→出願の単一性について

 さらに、権利行使の困難なものは出願を見合わせてもよい場合があります。例えば、工場内で社外の人の目に触れないように行うことができる方法発明は、実際の侵害を発見することが極めて困難で、その証拠をつかむことも難しいことから活用しづらい権利となるでしょう。

 一方、自社で実施する可能性はほとんど無いが、他社に取られては困る発明(「特許権を活用するときの障壁」に出てくるA+bのような発明)はどうでしょうか。他社の後願を排除するには一般に次の3つの方法があります。

(1)先にその発明を出願する

(2)先の出願明細書にその発明を記載する

(3)その発明を世の中に公開してしまう

(1)については説明するまでもないでしょうから、(2)(3)について少し説明します。

(2)先の出願明細書にその発明を記載する
 (1)との違いがわかりにくいかもしれませんが、(1)は【特許請求の範囲】に発明を書く場合で、(2)は【発明の詳細な説明】もしくは図面に発明を書く場合です。(2)のようにするのは、【特許請求の範囲】に書くと37条に違反する場合や、請求項ごとに課せられる審査請求の費用や特許料を節約する場合です。

 例えば、「特許権を活用するときの障壁」に出てきた発明Aの出願段階で実施形態の検討が十分にできていれば出願時の明細書内にA+bを書いておくことができたと考えられます。そうするとA+bについての後願は拡大先願の規定により排除することができたでしょう。このように基本発明の明細書の「実施の形態」等に他社に取られては困る発明を開示しておくことで後願を排除することができます。

(3)その発明を世の中に公開してしまう
 ここでいう公開は「出願公開」のことではなくて一般的な意味での公開です。特許権を他社に取られては困る発明を世の中に公開してしまうと新規性がなくなるので他社は特許を受けることができなくなります。発明協会が発行する公開技報を利用するとよいでしょう。業界紙などに掲載してもかまいません。また、インターネット上で公開する方法もありますが、インターネット上で公開した日時を証明するという問題があるので工夫が必要でしょう。(特許庁ホームページ「・・・・・・」参照)

 (3)の方法の良い点は(2)の方法の場合は出願公開されるまでは明細書に記載した発明と同じ発明についての後願しか排除できませんが、(3)の方法なら記載された発明に基づく進歩性のない範囲まで後願の排除ができます。

 一方、(3)の方法の欠点は後で特許を取ることが必要になっても特許を受けることができないという点です(但し、刊行物に掲載した場合は6ヶ月以内なら可能性有り)。(2)の方法なら、特許になるまでならその発明部分を補正により請求の範囲に追加したり、分割出願したりすることで権利化できます。

(注) 請求により公開時期を早くすることができます。これを利用すれば、【特許請求の範囲】に記載した発明を早期に公開するデメリットが少ない場合は、(2)のようにした出願について早期の公開を請求することによって(2)(3)の両方のメリットを享受することができるようになります。

ノウハウについて

 特許性のある発明で、実施する可能性のあるもの又はすでに実施しているものであっても特許出願をするべきでない場合があります。それはノウハウとして秘密にした方が有利になる場合です。製造方法などで著しい効果があるが製品を見てもその内容がわからないようなものなどはノウハウとして秘密にすることを検討するべきでしょう。この場合に、他社が独自に同じ技術を開発して、これについて特許権を取得してしまう場合があるということに注意しましょう。この場合、先使用権という実施権が認められるので実施を続けることができますが、出願前にその技術を実施していたことを証明しなければなりません。そのためノウハウとして秘密にする技術については公証役場などを利用して、その技術の実施を証明できるように備えておくことが必要になります。

知的財産権担保について

 特許権で経済的利益を得るということとは少しずれますが、特許権を担保として事業資金を借りることも可能です。現在のところ特許権の担保価値を評価できるノウハウや人材が少ないためまだまだこれからのものではありますが、近い将来、特許権を担保とする融資は一般的になっていくと期待されます。

 特許権の担保価値の評価は現在のところディスカウント・キャッシュ・フロー法(将来にわたる収益を一定の割引率を用いて現在価値に戻して評価する手法)という方法が一般的に用いられています。いずれにせよ、特許権の担保価値は将来にわたって得られるであろう収益によって定まると考えてよいと思います。しかし、それが簡単にわかるものではありません。貸し手は厳しく評価することになるでしょうから、実際に市場で収益を上げるまでは担保価値はなかなか認められないと考えるべきでしょう。

 しかし、いくつか特許出願しておけば、どれかは担保として十分価値のあるものに成長する可能性があるわけですから、特許出願を将来の担保となりうる財産を得るための投資と考える事もできるわけです。この観点から特許出願を考えた場合、担保としての価値を高めるためには、単体の特許権で事足りるとするのではなく、周辺特許や可能ならば意匠権、著作権を含んだ知的財産権のグループとして大きな範囲をカバーするように考えることが必要です。「特許権を活用するときの障壁」のところで書いたように単体の特許権だけでは十分な実施を確保できない場合も多く。それは将来の収益がそれだけ期待できないことを意味しますので、それだけ貸し手の評価の下がることになります。また、知的財産権担保という観点から見ると複数の発明を一つの特許権にまとめないで別々の特許権にした方が移転の容易さ等から使いやすくなると考えられます。 


個人が特許制度を活用する場合の留意点

個人と企業との違い

 特許制度を活用するという点からみて個人と企業との違いは何でしょうか?それは、自ら発明を事業として実施するか否かの違いであると言えるでしょう。個人で発明を事業として実施する場合も勿論ありますが、その場合は個人事業者となるのでここでは企業の方に入れることにします。

 では、事業として実施しないということはどういう意味を持つのでしょうか。まず、事業として実施しないければ企業のように利用発明の問題はなくなります。つまり、他社と実施許諾やクロスライセンス交渉をする必要もなく、侵害で訴えられることもありません。事業として実施しない個人は安全な場所にいることができます。これは、個人発明者のメリットといえるかもしれません。

 一方、事業として実施しないということは直接発明から収益を上げることができないので、企業に発明を実施してもらわなければなりません。具体的にはライセンス契約をして実施料をもらうか、特許権(又は特許を受ける権利)を売ることによって個人発明者は利益を得ることができます。結局企業が発明を認めるかどうかにすべてはかかってきます。これが個人発明者の最大のネックでしょう。なお、損害賠償請求で儲けようと考えるのは困難ですし、なにより邪道ですからやめましょう。 

 このネックをどう克服すればよいのかについての明確な答えは残念ながらありません。現在、ネット上で個人と企業との間を取り持つサービスを行っている企業もあるようです。ただ、このようなサービスはインターネット普及以前からも存在していましたが、あまり芳しい成果は上がっていなかったように思います。インターネットにより従来からあるサービスがどのように変わりうるのか、今後の展開を見守る必要があると思います。ちなみに私もこの問題に対応した試みを始めています。

個人の出願戦略

出願対象の絞り込み

 個人にとって最大の問題は資金でしょう。アイデアを考えつくそばから出願していてはいくら資金があっても足りません。出願はそれほどできないはずです。出願を絞り込む必要があります。ただ、どのような基準で絞り込むかは難しい問題です。特許性有無の判断は当然に必要ですが、それだけでは不十分です。参考にブース・アレン&ハミルトン社という会社が提唱した新製品の開発手順を紹介します。これはかなり古いものですが新製品の開発プロセスとしてよく知られており現在でも典型的な開発手順として通用すると思います。

 

新製品の開発プロセス

 開発手順は6段階に分かれています。具体的には(1)アイデアの探索、(2)アイデアの選別、(3)経済性分析、(4)開発、(5)テスト、(6)商品化の6段階です。

(1)アイデアの探索は、社員は勿論取引先や顧客等様々なところからアイデアを集める段階です。

(2)アイデアの選別は、探索したアイデアの中から良さそうなものを取捨選択する段階です。ブース・アレン&ハミルトン社が51社を対象に行った調査の結果では、この段階でアイデアは60強から約12に絞られることになります。

(3)経済性分析は、選別したアイデアが製品になった場合どのくらいの売上高、利益が期待できるかを予測して、経済的に有利なアイデアを抽出する段階です。ここで約12のアイデアは約7になります。

(4)開発は、アイデアが実際の製品として作られる段階です。製造コストや品質管理の容易さ等の観点からさらにアイデアは絞り込まれて約7のアイデアは約3になります。

(5)テストは、作られた製品のテストマーケティングが行われ、市場性や販売可能性などが判断される段階です。ここでアイデアは約2になります。

(6)商品化は、どのように新製品を売り出すかについて販売戦略が策定される段階です。ここで失敗すると絞られたアイデアも無駄になってしまいます。

 

 以上の開発手順を考えると、闇雲にアイデアを企業に売り込んでも採用される確率は高くないことがわかると思います。個人の発明者が出願を絞り込むためには、(3)(4)について検討する必要があると考えられます。発明が製品化されたときに、対象顧客層はどのあたりでどの程度売れることが期待できるのか?実際に製造する場合にどの程度のコストでできるのか?等を考えて、十分な成果が期待できる発明を出願候補に挙げてはどうでしょうか。なお、個人発明者はどうしても自分の発明に甘い評価をしがちであるので注意しましょう。信頼できる人に秘密を守ることを前提に発明を評価してもらうほうが良いかもしれません。また、製造コストなどの実現性を最初から意識して発明を考えると個人発明者の良い点である飛躍した発想が生まれにくくなります。当業者の常識を知らないことが個人の強みである場合もありますので、その辺のバランス感覚も大切でしょう。

 

出願審査請求は必要か否か?

 企業に売り込む際に、特許権になっている必要はあるでしょうか?企業側の立場に立って考えると特許権になっている方がベターであることは間違いありません。それは、出願段階でライセンスを結ぶとなれば、その出願が特許になるのかどうかを調査する必要がありますし、調査で特許性ありと判断していても100%確実ではありませんので、実際は特許が成立しなかったということになる場合も考えられます。企業としてはできればそのようなリスクは負いたくないでしょう。 

 一方、個人発明者にとって特許権になるまでに必要な費用の内、出願審査請求に必要な費用は大きな割合を占めているので、出願審査請求前の段階で企業に採用してもらい、出願審査請求に必要な費用は企業に払ってもらうようにするのがベターです。

 結局、審査請求をするかどうかは個人発明者の売り込み戦略次第であると思います。審査請求せずに売り込む場合は事前調査結果も合わせて提示するようにした方がよいと思われます。なお、出願審査請求をする場合でも改良の余地があるようなときは出願費用の無駄を生じさせないように優先権主張が可能な1年間は出願審査請求は控えた方がよいでしょう。

  

博打は避けること

 個人発明者は自分の発明に惚れ込んでしまう傾向にあります。それ自体はよいことなのですが、度が過ぎると多大なお金を費やして大損をすることになります。儲けることばかりを考えていちかばちかで猪突猛進するのは危険です。

 熱中するのは発明を考える段階までにして下さい。そして、一度、冷静になって客観的な立場で検証することも大切です。その発明を実現するための費用はどれくらいかかるか、特許権を取る価値はあるのか等を考えてみましょう。それからいくらくらいまでなら投資可能かも検討しましょう。投資した費用は返ってこない確率の方が遙かに高いことを念頭においておいて下さい。

 十分検討してどの程度の費用をかけてどのように行動するかについて自分で納得がいったなら後は自分の責任です。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」のことわざ通りに、ベンチャースピリット無しに利益を得ることは出来ないことも事実です。ただ、ベンチャースピリットとともに慎重さも忘れないようにして欲しいと思います。

 

個人発明者と職務発明

 個人発明者の中には企業に勤めている人もいるでしょう。その場合に注意しなければならないのは職務発明の問題です。職務発明とは、ここでは簡単に仕事の過程でできた発明という程度の理解で良いと思います(→基礎用語「職務発明」参照)。

 一般的に企業では、従業者の職務発明についての特許権や特許を受ける権利は使用者に引き継がれるように規定してあり、従業者は職務発明の譲渡書を使用者に提出するようになっています。ですから、職務発明で個人発明者が利益を得ようとするのは困難です(使用者からは何らかの対価が得られます。)。

 使用者の業務と全く関係のない発明であれば、まず問題ありませんので自由に出願できます。職務発明でない従業者の発明についての特許を受ける権利や特許権を使用者が引き継ぐことを、使用者が予め定めていてもそれは無効だと特許法で定められています。

 あと、使用者の業務範囲に入るけれども職務発明ではない発明(業務発明)は、届け出義務などが課されている場合がありますので注意が必要です。とりあえず就業規則をチェックしてみましょう。  

個人発明者の方への提言

 個人発明者は今の特許の世界では残念ながら主役ではありません。おそらく今後もそうでしょう。従って、個人発明者は特許を活用するにはやや不利な状況にあります。しかし、個人の発明が世の中を変えうることも事実でしょうし、何より個人発明は新らたな起業のシーズとなる可能性をもったものですから、個人発明者の活動は否定されるべきものではありません。そこで個人発明者が少しでも有利な展開をすることができるような意見を少々述べてみたいと思います。

 

 グループ化を図る

 何人かでグループになって発明を完成から出願まで一緒に行うようにしてはどうでしょうか?グループでいろいろなアイデアを出し合って、権利化の価値があるものを選び出して、さらに、ブレーンストーミングをすればより洗練された発明になる可能性はずっと高くなります。また、出願の際の明細書の検討も数人で行えば異なる視点で評価でき、よりよい権利を取ることができます。そしてなにより、共同出願をして出願費用を等分で出し合えば各人の経済的な負担が非常に軽くなります。出願時に25万円かかるとして5人いれば個人の負担は5万円までに低減できます。出願後に発明を売り込んだり、実施するような場合でも複数人で協力すれば成功の可能性もずっと高くなるでしょう。

 デメリットは、中心となって発明を考えた人とあまりアイデアに貢献しなかった人との間に不公平感が生じる可能性があること、利益がでたときに金銭的な争いが起こる可能性があることなどが考えられますが、最初にきっちりと取り決めをしておけば克服できるのではないかと思います。

 現在はインターネットという強力な武器があります。メンバーを集めることはそれほど難しくはないのではないでしょうか?

 自ら実施する

 ホームページを使ったネット通販は個人発明家を個人事業者にする有力な手段ではないでしょうか?もちろん、発明を利用した製品は容易に製造できる物である必要はありますが、そこがクリアーできれば実施は可能でしょう。実施をすることはそれなりのリスクを伴いますが、すべてを自分の思い通りにすることができます。

 発明をして事業を開始する。これは特許制度の目的にもっともかなうことです。うまく行けば大きな会社になるかもしれません。ネット通販から始めるならば、会社を起こしてから実施する場合に比べて遙かに低リスクで済むはずです。 

 ソフトウエア発明をねらう

 最近、ソフトウエア自体も特許の対象として認められるようになりました。ソフトウエア発明は個人発明家にとってねらい目です。ソフトウエアの開発はパソコンがあればできます。そして、実施をするにしてもホームページ上にシェアウエアをアップすれば足りますし、評判になれば企業とのライセンス契約締結につながる可能性もあるでしょう。

 また、上記のようにグループ化をするならば、Linux的な開発手法も使えます。もちろんオープンでは無くてクローズドでやる必要はありますけど。それから、ソフトウエア発明はプログラムを書けなくてもできます。ソフトウエア関係の明細書を見るとわかりますが発明の段階ではプログラムの知識はなくても大丈夫です。多少のコンピュータの知識は必要ですが、今までコンピュータでやってないことであったらいいなというものが見つかるかどうかが勝負でしょう。この意味では大企業も個人も同じ土俵にあると言えます。よい着想があって、よい協力者が見つかれば成功の可能性はあります。

 個人発明者の成功は困難ですが、発明そのものを楽しむ姿勢であせらないようにしましょう。そして、できるならば起業を目指して下さい。


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