自分で特許出願をする?特許事務所に依頼する?


特許出願を行おうとする場合、自分で特許出願をするか、特許事務所に依頼するかを選択しなければいけません。どちらを選ぶのが良いのでしょうか?


どちらか選択するときの留意点

手間・時間・質

自分で特許出願をする場合、特許出願書類の作成方法を調べ、理解してから書類を作成する必要があり、大きな手間と時間がかかります。また、特許出願書類の質も劣ってしまう可能性が高いでしょう。特許出願書類の質とは、特許庁で拒絶されたり無効にされにくく、さらに、特許権の範囲が広くなるように書かれていることと考えるといいでしょう。

報酬を受けて日本の特許庁に対して出願の代理を行うことができるのは弁理士という国家資格を持つ人だけであり、その弁理士が経営するのが特許事務所です。特許事務所には特許実務に関する知識・ノウハウがありますので、特許出願を特許事務所に依頼すれば時間と手間をかけずに済みますし、特許出願書類の質も確保できます。

お金の問題

基本的にお金に制限がなければ、特許事務所を使うのが良いのは間違いありません。しかしながら特許事務所を使って特許権の取得まで進む場合は、価格を抑えた事務所を使ってすんなり特許権が取得できたとしても50万円くらいはかかります。そして、多くの場合1回は拒絶理由通知が来ますし、審判にまで進んだりすると100万円を超える場合もあります。ただし、この金額は一度に発生するわけではなくて、特許出願時、審査請求時、拒絶応答時、特許査定時などで分かれて発生します。期間は早ければ1年以内ですが、審査請求を3年目ぎりぎりにすれば4年以上に分散することもできます。

そして、100万円をかけて特許権を取得したとしても、特許発明が売れなければこの特許権が1円も収益が生まないこともあり得えますし、かけた資金を回収できる可能性の方がむしろ少ないかもしれません。また、100万円をかけても最終的に特許権が不成立になる場合もあります。ですから特許取得にかける費用は余裕のある資金を使うことが肝要です。

もっとも、とりあえず特許出願まで行い、審査請求までの3年の間に収益化の可能性を探って、可能性が有りそうならば先に進み、無さそうならそこで止めるということをすれば、利益を生まない発明に対する損失を出願時費用25万~30万円程度に抑えることができます。また、実用新案登録を選択すればやはりこのくらいの金額で実用新案権まで取得することができます。

いずれにせよ回収できない可能性のある費用として最低でも25万円くらいは見ておかなければいけせんので、特に個人で特許事務所を利用する場合はよく考える必要があります。



つまり、特許出願に際しては、労力・時間・質の観点から特許事務所を選ぶか、お金の観点から自分で手続きをするか2択しかないのが現状で、金銭的余裕が無い場合には大変悩ましい選択をする必要があります。

その他の観点

金銭的な観点の他に、自分で出願書類を作成してみることには、次のようなメリットが考えられます。

(1)知識・ノウハウの蓄積

知識のないまま特許事務所に依頼すると、特許事務所から確認のために特許出願の書類案が送られてきたときに、発明自体がちゃんと書かれているかどうかといった技術的観点のチェックはできても、特許権の効力範囲はどうかといった法律的な観点からチェックすることができません。また、知識やノウハウがないと特許事務所を選ぶ際にも、過去の特許出願書類を見て良い事務所かどうかの判断を行うことができないので、料金や印象でなんとなく選んでしまうことになります。

自分で特許出願を行うと特許出願を含めて特許に関する知識やノウハウを得ることができます。そして、何度か自分で特許出願をし、特許庁とやり取りをして特許権を取得したり拒絶されたする経験を経ることで、特許事務所に頼らなくても特許権を取得できるようにもなります。

こういった知識は本やセミナーなどでもある程度得られますが、実際に特許出願をして特許庁と実際の手続きをすることで得られるものとは大きな差があります。ですから、今後特許出願をたくさんしていきたいと考えているならば、最初はあまり重要でない発明について特許出願をして知識やノウハウを獲得することは非常に有効でしょう。

(2)発明の深化

特許出願書類を作成することは、経験のある人はわかると思いますが、具体的な商品が有する発明について本質は何かをとらえ直す作業であるといえます。研究開発時には発明者は市場性や利便性から最もベストな商品形態は何かを考えて発明をするわけですが、特許出願書類を作成する過程においては、発明を分析してどんな効果があるのか、その効果はどんな構成に基づくものなのかを考え、その構成を実現するもっとも根本的な条件を抽出します。このとき、いろいろな発明の可能性を検討していくことになります。つまり、研究開発時点ではベストな一点を目指しますが、特許出願書類を作成する際には発明の可能性を探る作業を行います。このことによって、発明者はより深く発明を理解でき、研究開発時には気づかなかったアイデアや観点を見出したり、よりベストな形態を思いつくこともあります。これは発明者自身が特許出願書類を作成することで得られる効果で、特許出願書類の作成を自分で行うことで発明を深化させることができるということが言えます。もっとも、発明者が書類を作成してこれを特許事務所に持って行って出願してもらっても良いことは言うまでもありません。

(3)特許出願書類の作成かける時間

十分な知識やノウハウを得たうえで、重要な発明について時間をかけて特許出願書類を作成したいという場合もあると思います。特許事務所に依頼する場合、発明の内容にもよりますが特許事務所の担当者は一つの案件を着手してから数日~2週間程度で仕上げるのが普通でしょう。一方で自分で特許出願書類を作成する場合はかける時間に制限がありません。また、発明に関する技術的知識も特許事務所の担当者よりも発明者の方がずっと上でしょう。特許出願に関する基本的な知識があることが前提として、技術的知識のある発明者自身が先行技術の検討にたっぷりと時間をかけて、納得いくまで発明の本質を検討して得られる特許出願書類は、特許事務所が作成する特許出願書類を凌駕することは十分にあり得ることです。もちろん、この場合も、できた書類をさらに特許事務に検討してもらうことは有効です。


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