特許調査の目的
特許調査はいろいろな場面で行われますが、特に特許出願前に行われる特許調査では以下のような事項を目的としていると考えてよいでしょう。
特許(登録)の可能性を判断するため
特許出願が拒絶される理由のほとんどは先行技術の存在による新規性・進歩性の欠如です。すでに同じような発明(考案)についての出願がされている場合は特許(実用新案登録)出願が無駄になります。特許出願の無駄をなくすことは出願費用の無駄をなくすだけでなく研究開発に要する金銭的・時間的コストの無駄もなくすことを意味します。また、先行技術を把握することで新たな改良発明(考案)を生み出すきっかけにもなるでしょう。
明細書作成の参考資料として利用するため
自社・個人出願をする場合には同じ分野の発明に関する明細書はたいへん参考になります。特にはじめて特許出願する場合は是非参考とする明細書を調査により入手することをお勧めします。
権利侵害とならないかどうか判断するため
これは特許出願とは直接関係がありませんが、特許(実用新案)権が取れない場合でも権利侵害となっていなければ発明は実施できます。また、特許(実用新案)権が取れる場合であっても、先行する特許権等の利用発明である場合は自由に発明を実施することができません。従って、特許出願しようとする発明の実施の可能性を判断しておくことは大変重要です。
特許調査のための基礎知識
調査をするために知っておくべき基礎的な知識を以下に挙げます。
公開公報
特許および以前の実用新案について出願日から1年6ヶ月経過後に発行される出願内容を公開するための公報。公開までに取り下げ等されない限り必ず発行されるので先行技術調査の対象として最も重要。また、古い公報でなければフロントページには要約と代表図面が掲載してあり調査がしやすくなっている。
特許(実用新案)掲載公報
特許(実用新案)権が設定登録されると発行される権利の内容を開示するための公報。侵害かどうかを判断するための権利情報としての役割が大きい。一般的には特許公報と呼ぶことが多い。
公告公報
平成6年の法改正により廃止。それまでは審査で特許権を与えてもよいと判断された出願内容を開示して異義を受け付けるために発行されていた公報。
IPC(国際特許分類)
国際的に標準化されている特許を分類するためのコードの体系。コンピュータ検索において調査対象を絞り込むときに役立つ。例えば「B64C 1/00」のように表される。公開公報や特許公報には特許庁が分類したIPCが表示される。特許情報プラットフォームの特許・実用新案分類照会(PMGS)でIPCコードを調べることができる。
FI
特許庁がIPCをベースに作成した、IPCをさらに細分化した分類記号。表記はIPCとほぼ同じであるが、細分化した分類には、「B64G1/22 328」「B64G 1/00 A」「B64G1/22 100A」のように3桁の数字からなる展開記号やアルファベット1文字からなる分冊識別記号が付く。コンピュータ検索において調査対象を絞り込む際にはIPCよりも使える。公開公報や特許公報には特許庁が分類したFIが表示される。特許情報プラットフォームの特許・実用新案分類照会(PMGS)でFIを調べることができる。なお、特許情報プラットフォームでの検索においては、展開記号の前には「,」を分冊識別記号の前には「@」を付けて、「B64G1/22,328」「B64G1/00@A」「B64G1/22,100@A」のように入力する。
Fターム
特許庁が作成する詳細な分類のためのコード体系。技術を複数の技術的観点(目的、用途、構造、材料等)からIPCを所定技術分野ごとに細かく再区分したもの。FIとともにコンピュータ検索において有用。「3E028AA02」のように表記される。「3E028」の部分がテーマコードであり技術を分類したテーマごとに定められ、「AA02」部分がテーマ内をさらに種々の観点で分類するタームとなっている。Fタームも公開公報や特許公報には表示され、特許情報プラットフォームの特許・実用新案分類照会(PMGS)で調べることができる。
特許情報プラットフォーム
独立行政法人工業所有権情報・研修館が提供する過去の公開公報、特許公報等を検索することができるデータベース。費用をかけずに自ら特許調査を行う場合はこのデータベースを使うことになる。 →特許情報プラットフォーム
特許調査の方法
特許調査は特許情報プラットフォームを含むインターネットを利用するか、調査会社に依頼することが一般的でしょう。
時間がない場合や資金に余裕がある場合は専門の調査機関に依頼する方が便利です。特許庁ウェブサイトの特許情報提供事業者リスト集で調査機関を調べることができます。特許事務所に依頼してもよいでしょう。依頼の際には料金の確認を忘れずに。調査の程度に応じて値段がかなり変わります。
お金をかけたくない場合は、自らインターネットを利用して調査をすることになるでしょう。ここでは、特許権がとれる発明かどうかについて、インターネットで調査する方法について説明します。
検索サイトを使った検索
特許情報プラットフォームを使う前に、まず、発明を思いついたら検索サイトを使って、思いつくキーワードで検索をしてみましょう。特に、Googleの画像検索やBingのAiチャット検索をお勧めします。検索ワードをいろいろ変えてみることも必要でしょう。ここで類似する商品が見つかることも多いです。
特許情報プラットフォームを用いた検索
検索サイトで見つからなければ、特許情報プラットフォームで検索をします。検索の方法はいろいろありますが、ここでは一つの手順を紹介します。
1. 特許情報プラットフォームの特許・実用新案検索で適当なキーワードをいくつか入れてみて検索結果見てみる。検索結果が多い場合は、AND検索を使用したり、除外キーワードを設定したり、検索項目を要約や発明・考案の名称にしたりしてみる。50件~200件くらいが適当。
2. 抽出された公報をチェックしていき、発明に技術的に近そうな公報をピックアップする。物の発明であれば、図面のみにして見ていくと効率的。
3. ピックアップされた公報のFIとFタームを調べ、共通するものを探す。
4. 特許情報プラットフォームの特許・実用新案分類照会で見つかったFI、Fタームの内容を確認、FIは前後の内容を、Fタームはタームリストの内容をみて、発明が含まれると思われる分類記号を抽出。
5. 特許情報プラットフォームの特許・実用新案検索で抽出したFI、Fタームを使って検索、FI、Fタームのいずれかのみでももちろん良い。公報をチェックして検索結果が発明とずれていると感じたら4. に戻って再検討する。発明に技術的に近いものが見つかるようであれば、抽出されたすべての公報の内容を確認して、発明に近いものを抽出していく。
特許情報プラットフォームで特許調査をするにあたって留意すべきこと
上記の方法で基本的な調査を行うことはできます。しかし、特許になるかどうかを確かめるための特許調査をより実効性のあるものにするためには、抑えておくべきポイントがあります。
(1)進歩性があるかどうかという観点で調査をする
ただ漠然と特許になるかどうかを知るために特許調査をすると、単純に同じような発明が特許出願されていないかどうかという観点で調査をすることになるでしょう。これは新規性があるかどうかという観点で調査をしていることになります。ところで新規性はあっても進歩性がなければ特許にはなりません。ですから、新規性という観点だけで調査をすると不十分ということになります。一方で進歩性があるかどうかという観点で調査をすると自ずと新規性についても調査をすることができます。
進歩性があるかどうかという観点で調査をするためには、どのように進歩性が判断されるのかを知っておく必要があります。進歩性の判断基準については、こちらを参照してください(進歩性の判断基準)。簡単に要約すると、審査をする発明に最も近い発明を主引用発明として、審査する発明から主引用発明にない相違点をピックアップします。そして、この相違点が簡単に思いつけるかどうかを考えます。相違点が、良く知られた技術であったり、単純な設計事項であったりする場合は簡単に思いつけると判断されます。さらに、別に見つかった副引用発明にこの相違点がある場合にも簡単に思いつけると判断されます。特許調査ではこの主引用発明および副引用発明となるものがないかどうかを探すことになります。なお、主引用発明は調査の結果、対象の発明に一番近い発明がなるので、調査段階では主引用・副引用といったことを考慮する必要はありません。
このことを踏まえて、具体的にどのように調査を進めるかについて説明します。まず、最初におこなうのは調査対象の発明において相違点となり得る部分はどこかを決めることです。どんな発明でも必ず何かの目的を達成するために発明されたもので、その目的を達成するために従来のものとは違う構成があるはずです。その構成部分を考えましょう。なお、構成部分は目的を達成するために絶対必要な部分のみを選ぶようにします。それから、見出した構成部分をいくつかの要素に分けます。これら要素は発明の特徴ということができます。そして各特徴が相違点になり得る部分です。例えば、一端に消しゴムを固定した鉛筆を初めて発明したと仮定すると、特徴A:「消しゴムを一体に固定すること」と、特徴B:「一端に物を固定すること」との2つの特徴に分けることができます。この分け方に決まりがあるわけではありませんが、分け方が調査の成否を決めることになります。進歩性を否定するにはどんな引用発明があり得るか、過去にどんな発明が存在し得るかといったことを意識するとよいでしょう。抽出される特徴は分けることができなければ1つだけの場合もあるでしょう。
特徴が抽出できたら特許情報プラットフォームでの調査をします。抽出されたのが特徴Aのみであった場合は、発明の技術分野で特徴Aを有する発明があるかどうかを調査すればよいことになります。なお、この場合は新規性があるかどうかという調査と実質同じです。
抽出されたのが特徴A、特徴Bの2つであった場合は、発明の技術分野で特徴Aを有する発明と、特徴Bを有する発明のそれぞれについて、過去に存在したかどうかを調査すればよいことになります。
抽出されたのが特徴A、特徴B、特徴Cの3つであった場合はどうでしょうか?特徴Aのみを有する発明、特徴Bのみを有する発明、特徴Cのみを有する発明が仮に存在したとしても、この場合、基本的に進歩性は否定されません。特徴Aに特徴Bを適用することは容易と言えますが、これにさらに特徴Cを適用することは一該に容易ということは言えないからです。ですから、この場合は調査するのは、特徴A+B、特徴B+C、特徴C+Aのそれぞれについて、これらを有する発明が過去に存在したかを調査し、例えば、特徴A+Bを有する発明が見つかった場合は、さらに特徴Cを有する発明が存在したかを調査することになります。
特徴が4つ以上の場合も組み合わせを考えて調査することになりますが、3つ以上は大変煩雑になります。特徴の分け方に決まりはありませんので、基本的には特徴は2つに分けるようにするのがベターです。また、特徴が多すぎるのは発明の目的を達成する構成部分を選ぶときに必要でない構成もピックアップしていることが原因の場合も多いのでこの点も検討するべきでしょう。
調査が完了したら、見つかった発明について進歩性の審査基準を当てはめてみて調査対象の発明について進歩性があるかどうかを検討しましょう。
なお、調査ですべての特徴を有する発明が見つかった場合は、新規性がないことになりますので、進歩性の調査をすれば新規性の調査も自ずとできることになります。
(2)どこまで調査をするかという問題
まず、特許調査の前提として100%の精度で調査をすることはできません。調査でのピックアップ件数を多くすることで調査の精度を高めることができますが、それだけ関係の無い特許公報(ノイズ)が増え、文献をチェックする時間も増えることになります。90%の精度を最大と仮定すると、これに近づけるための労力は指数関数的に大きくなります。かけることができる労力には限度がありますから、必ず、どこかで妥協をする必要が出てきます。
例えば、調査にかけることができる労力が最大10時間(600分)だとして、一つの特許明細書をチェックする時間の平均が5分だとすると、検索式を作る時間や特許性を評価する時間も考えてピックアップできる特許公報の件数は100件前後となるでしょう。
ピックアップできる特許公報の件数は、調査する発明ごとに変わります。例えば、調査する発明が図を見れば特徴がすぐにわかるようなものであれば、ピックアップされた特許明細書の図面をチェックしていけばいいので、多くの件数を見ることができますし、特許明細書の文章をしっかりと読まないと特徴を把握できないような発明の場合はピックアップできる件数は自ずと少なくなります。
また、ピックアップできる特許公報の件数は、調査をする人の特許明細書を読み取る能力にも大きく依存します。特許明細書を読み取る能力が高ければ、それだけ多くの特許公報を評価できますが、はじめて特許公報を見るような人にとっては一つの特許公報をチェックするだけでも相当な時間がかかるでしょう。
つまり、特許調査では、調査ごとに労力と調査精度とのバランスを考慮して、ピックアップする特許公報の件数を見積る必要があります。もっとも、実際に検索したときに見積った件数に近い件数に絞り込めるとは限りません。この場合、条件をさらに付加すると件数が少なくなり過ぎることになりますので、多すぎる件数を選んで労力を犠牲にするか、少なすぎる件数を選んで調査精度を犠牲にするかを決めなければいけない事になります。
(3)テキスト検索の併用も検討する
テキスト検索は、ピックアップされるべき特許公報に、検索に使用する単語が使われていない場合、このような特許公報を見つけることができません。つまり、漏れが多いので、テキスト検索のみを使って検索することは適切ではありません。では分類記号による検索が完璧かといえばそうではありません。分類記号は人が特許文献ごとに付与しているので付与する人によって漏れやずれが生じることもあります。ですから、分類記号による検索にテキスト検索を組み合わせることは漏れをより少なくするという意味で望ましいといえます。
特に、分類記号による検索でピックアップされる特許公報の件数が多すぎるような場合、追加でさらに下位概念の分類記号でピックアップ件数を減らすよりは、テキスト検索で絞り込む方が良い場合があります。また、逆に分類記号による検索でピックアップされる特許公報の件数が少なすぎるような場合も、テキスト検索で可能性のある特許公報を増やすことは考えるべきでしょう。
テキスト検索の問題は、検索の際に思いついた言葉とは違う同義語・類義語・異表記が特許公報で使われることです。同義語を見つける方法の一つとして、国立科学技術振興機構が提供しているJーGLOBALを使うことが挙げられます。検索結果の一番上にある検索窓の横のリンクから検索ワードの同義語を見ることができます。なお、特許情報プラットフォームで検索するときに文献種別の選択欄でJ-GLOBALを選択すると、検索結果一覧に「J-GLOBAL同義語」の項目が出てきますので、これから同じ結果を見ることが可能です。また、同じく国立科学技術振興機構が提供しているJSTシソーラスマップは類義語を考えるのに役に立つでしょう。こちらはJ-GLOBALの検索結果から飛ぶこともできます。あと、技術用語ではない単語についてはGRASグループ株式会社が提供しているWeblio類語辞典を使うと良いでしょう。
異表記については、特許情報プラットフォームではアルファベットの大文字小文字の違い、全角半角の違いのような異表記については自動的に同じものとして検索してくれます。しかし、「プレイヤー」と「プレーヤー」、「バイオリン」と「ヴァイオリン」、「猫」と「ネコ」と「ねこ」のような異表記については同じものとして扱われないので、このような異表記はピックアップしておく必要があります。異表記検索については、後述する部分一致検索、近傍検索が有用です。あと、異表記に限らず同義語・類義語でも、ChatGPTなどのAIチャットを利用して探すことは良い方法でしょう。
(4)分類記号について知っておくべき点
階層を示すドット
FIでも、Fタームでも上位概念・下位概念といった関係を示す階層は「・」「・・」「・・・」のようなドットで示されています。ドットの数が少ないものが上位概念、多いものが下位概念です。検索で上位概念の分類記号で検索すれば、下位概念の分類記号が付与された特許文献も検索でピックアップされます。検索件数を絞り込むには、上位概念、下位概念の見極めが重要になります。
以下に、FIの分類表の一部を示します。
FIの内容説明の前に「・」や「・・」などのドットが表記されています。
FIにおけるドット表記で注意点していただきたいのが、A、B、Cなどのアルファベット一文字で表される分冊識別記号については、ドットの体系が独立しているという点です。上の例で見ると「B64G1/22,100」は「・・放出・展開機構」でドットは2つですが、その下の、「B64G1/22,100@A」は「放出機構」とのみあってドットは0です。「放出・展開機構」よりも「放出機構 」がより上位概念ということはありえません。これは分冊識別記号が付く「B64G1/22,100@A」から新たにドットを付けはじめているので最初の「放出機構」はドットが0になっており「B64G1/22,100@A」から「B64G1/22,100@Z」までのドットは分冊識別記号だけの階層を示しているということになります。分冊記号が付くものは、直前の分冊記号を省いたFIの下位概念となります。
ですから、「B64G1/22,100 ・・放出・展開機構」で検索すると、「B64G1/22,100」の他に「B64G1/22,100@A」から「B64G1/22,100@Z」が付与された特許文献がピックアップされることになります。「B64G1/22,100@Z」の次は、「B64G1/22,224 ・・膨張式構造」です。これはドットが2つで「B64G1/22,100 ・・放出・展開機構」と同じなので、この記号が付与された文献はピックアップされません。もし、ドットが3つであったなら、このFIが付与された文献もピックアップされることになります。つまり、同じ階層レベルのFIが次に出てくるまでの間に表記されているFIはすべて下位概念になるので、これらが付与された文献はすべてピックアップされます。限定的に抽出したい場合の検索方法は、後の論理式の項目で説明します。
Fタームについては、FIの分冊記号のような一部が独立したようなドット体系はなく、AA、ABなどの観点ごとにドットが体系的に付与されているのでわかりやすいでしょう。ただ、Fタームにおいては、付加コードに注意する必要があります。付加コードは一部のテーマに補完的に追加される1文字の英数字です。例えば、「2E110GA01.W」のように表記されます。問題なのは、付加コードが付与された文献は付加コード部分を省いたFタームで検索してもヒットしないということです。例えば、「2E110GA01」で検索するとヒットするのは100件以下ですが、「2E110GA01.W」で検索すると7000件以上ヒットします。付加コードが付いた文献をピックアップするには、Fタームの末尾に「.」を付けて、「2E110GA01.」とすると付加コードが付与されている文献もヒットします。ですから、Fタームを使って検索する場合は、付加コードが付くかどうかを調べる必要があります。付加コードが付くかどうか、および、付加コードの内容は「付加コード一覧」で調べることができます。
分類記号の更新
キーワードで検索して見つけた特許公報からFIやFタームをピックアップして、特許情報プラットフォームの特許・実用新案分類照会(PMGS)で検索すると、検索結果が 0件になることがあります。これはFIやFタームが更新されて変わってしまっているからです。このような場合は、分類記号がどのように変わったかを調べる必要があります。
FIの場合は、特許・実用新案分類照会(PMGS)で最初の4文字だけ(サブクラスまで)にして検索します。例えば、0件だったFIがB64G 1/00@Gなら最初の4文字のB64Gを検索します。すると、該当するところに「FI改正情報」と記載しているリンクが見つかるはずです。これをクリックすると見つからなかったFIの改正情報を見ることができます(改正が古すぎると改正情報には載っていない場合があります)。出てくる改正情報は量が多いので、ブラウザの文字検索を使って検索するのがよいでしょう(画面上で「Ctrl+F」を押すと右上に検索窓が表示されます)。
Fタームの場合は、特許・実用新案分類照会(PMGS)の一番上の欄に記載されているテーマコード表のリンクから飛べるテーマコード一覧(テーマコード表)から調べることができます。また、Fタームでは、廃止されたテーマでも検索結果として表示される場合があります。この場合は、検索結果の備考欄に改正の内容が表示されていますので、これから知ることができます。
FIやFタームの改正は常に行われていますが、特許情報プラットフォームでは最新のFI、Fタームで検索すれば古い分類記号が付与されている特許文献も検索できます。ただし、データベースの更新が追いついていない場合など、改正が反映されていないケースが多々あります。ですから、FIやFタームで検索する場合は、改正前のFI・Fタームも含めて検索するのがベターです。改正前のFIの調べ方は上記と同じで、最初の4文字を検索して出てくる改正情報のリンクから調べることができます。Fタームの場合は、検索結果の備考欄に改正前の情報が記載されているので、これから知ることができます。
(5)特許情報プラットフォームで使う論理式を理解する
AND検索、OR検索、NOT検索
検索で特許公報を絞り込むためには、AND検索とOR検索を使うことが基本になります。AND検索は指定した単語や分類記号のすべてを含む検索で、OR検索は少なくともいずれかを含む検索です。特許情報プラットフォームの特許・実用新案検索では、選択入力と論理式入力がありますが、どちらでもAND検索、OR検索が使えます。
選択入力では、縦に検索項目とキーワード入力欄を1セットとする行が縦に並んでいます。縦に行を変えるとAND検索になります。各行の検索項目はプルダウンメニューで変更することができます。各行のキーワード入力欄でスペースを空けて単語や分類記号を並べるとOR検索になります。
論理式入力では、AND検索は「*」を使用し、OR検索は「+」を使用します。例えば、FIで「B64G1/16」と「B64G1/22」の両方を含む特許公報をピックアップしたい場合は、AND検索を使って「B64G1/12/FI*B64G1/22/FI」と表記します。「B64G1/16」と「B64G1/22」との少なくともいずれかを含む特許公報をピックアップしたい場合は、OR検索を使って「B64G1/16/FI+B64G1/22/FI」と表記します。なお、「*」「+」は、選択入力のキーワード入力欄でも使用することができます。
NOT検索は、含めたくない単語や分類記号がある場合に使います。選択入力では、メインの検索欄を下に見ていくと「除外キーワード」欄がありますので欄の右端の「開く」をクリックすると入力できるようになります。論理式入力では「-」を使用します。FIの「B64G1/16」から「B64G1/22」を含む特許公報を除外したい場合は、「B64G1/12/FI-B64G1/22/FI」と記載します。「-」も選択入力のキーワード入力欄で使えるので、「除外キーワード欄」を使わずに「-」を使うことで同じ結果が得られます。NOT検索で注意すべき点は、除外する単語や分類記号が含まれる特許公報はすべて除外されてしまうということです。必要な単語や分類記号が含まれる特許公報でも除外する単語や分類記号が含まれているとピックアップできないことになります。つまり、除外する単語のみ載っている公報や、除外する分類記号のみが付与されている公報だけを除外するということができません。NOT検索は、使うときは問題がないか良く考える必要があります。
分類記号に関してはNOT検索を使いたい場合には、下位概念をOR検索することを考えてみましょう。この際、階層無視記号「$」を知っておくと使える場面が多くあります。一般的に分類記号で検索すると、検索する分類記号のほか、これの下位概念の分類記号が付与された特許公報がすべてピックアップされます。ここで階層無視記号「$」を最初に付けると、下位の階層の分類記号が付与された特許公報を省くことができます。例えば、上で例に挙げたFIで、B64G1/22,100@Aで検索すると「B64G1/22,100@A」の他、下位概念である「B64G1/22,100@B」「B64G1/22,100@C」が付与された公報もピックアップされますが、階層無視記号を付けて「$B64G1/22,100@A」で検索すると、「B64G1/22,100@A」が付与された公報のみがピックアップされます。階層無視記号「$」を使うときに気をつけるべきことは、FIに関して階層無視記号「$」は、同じサブクラス内、展開記号内、分冊識別記号内で効いてくるということです(「B64G1/22,100@A」を例にすると「B64G1/22」までがサブクラス、「100」は展開記号、「A」は分冊識別記号)。ですから上で例に挙げたFIから、「$B64G1/22,100」で検索した場合、階層無視記号「$」は展開記号同士で効いてくるので、「B64G1/22,224」の前にある「B64G1/22,100@A~Z」までの分冊識別記号が付与された特許公報は下位概念ですが無視されずにピックアップされますし、「$B64G1/22」で検索した場合、階層無視記号「$」はサブクラス同士で効いてくるので、下位概念の展開記号・分冊識別記号は無視されずに、「B64G1/24」の前までの「B64G1/22,428」等もピックアップされます。
部分一致・ワイルドカード・近傍検索
「バイオリン」と「ヴァイオリン」、「ディスプレイ」と「ディスプレー」とは同じ単語で表記が異なる異表記です。テキスト検索をする際、このような異表記の共通する部分を有する文字列を検索できるのが部分一致検索です。具体的には、「?」を使って、「'?イオリン'」(※シングルクォーテーション「'」で挟む)として検索します。後を変えたい場合は、「'ディスプレ?'」と後に「?」を付ければ良いですし、前後を変えたい場合は「'?ディスプレ?'」とすれば足ります。
両サイド以外の内側にある文字を変えたい場合は、ワイルドカード検索を使用します。なお、一般的に検索などで任意の文字に置き換える「?」や「*」のことをワイルドカードと呼びますが、特許情報プラットフォームでは、文字列の両端以外の文字を任意の文字に置き換える検索をワイルドカードと呼んでいます。例えば、「'マウス?カーソル'」のようにして検索します。使い方は部分一致とほぼ同じですが、ワイルドカード検索の「?」は文字数も指定しており、「?」の数が文字数を表します。ですから、「'マウス??カーソル'」と「?」を2つにした場合は、「マウス」と「カーソル」との間に2文字挟まれるもののみがピックアップされることになります。なお、ワイルドカード検索では「'マウス?カーソル?動作'」のように「?」を複数使うことも可能です。
ワイルドカード検索に似たものとして近傍検索があります。近傍検索では、「マウス,3C,カーソル」(※シングルクォーテーション「'」で挟まない)のようにして検索します。ワイルドカードでは間に挟まる文字の文字数が固定でしたが、近傍検索は指定した数字以下の文字数が挟まっているものがピックアップされます。「マウス,3C,カーソル」なら、「3C」なので、「マウス」と「カーソル」との間に3文字以下(0文字も含む)の文字が挟まっているものがピックアップされることになります。なお、「C」の場合、「マウス」「カーソル」の前後の順序が維持されます。近傍検索では、「C」の他に前後の文字列の順序を問わない「N」も使えます。ですから、「マウス,3N,カーソル」とした場合は、「カーソル」が「マウス」の前に位置するような文字列もピックアップされることになります。なお、近傍検索も「マウス,2C,カーソル,5C,動作」のように複数の文字列間で使う事が可能です。
部分一致、ワイルドカード、近傍検索は特許情報プラットフォームにおいて選択入力、論理式入力のいずれでも使うことができます。ただ、近傍検索は選択入力ではOR検索ができませんので、近傍検索でOR検索をする場合は論理式入力を使う必要があります。
期間の指定
特許情報プラットフォームでは、予備検索などで検索結果が何千件となって内容を表示できない場合があります。このような場合でも、内容を確認したい場合には期間を限定することで件数を減らして公報を表示させることができます。
やり方は、選択入力でも論理式入力でも同じで、まず、一番下にある検索ボタンのすぐ上の「検索オプション欄」を開きます。すると「日付指定」の欄がありますので、出願日、公開日など検索する日付を指定して、期間を入力します。期間を指定しないと検索結果が数万件となる場合でも、十分に狭い期間を指定して検索すれば、表示できる件数まで検索結果を減らすことができます。
論理式入力で使う演算子
選択入力は使いやすいので、多くの場合選択入力だけで事足りますが、違う項目同士をOR検索する場合など論理式入力を使わなければ検索できない場合も有ります。選択入力の右下に「条件を論理式に展開」というボタンがありますので、選択画面で入力できる項目は選択画面で入力して、このボタンをクリックすることで、そこまでの論理式は自動で生成されますので、これに必要な項目を追加するのが楽でしょう。
選択入力では使えない演算子や検索項目などもありますので、論理式入力で使う演算子や検索項目について、今まで説明したものを含めて以下にまとめます。論理式の各項は原則として「/」を挟んで検索項目を指定し、機能を有する文字はすべて半角で表記します。なお、検索項目以外は基本的に選択入力でも使えます。
検索項目
FI ※省略可 | FI | FT ※省略可 | Fターム | IP | 国際分類 |
TX | 全文 | TI | 発明の名称 | AB | 要約/抄録 | CL | 請求の範囲 |
SP | 明細書 | FA | 利用分野 | BA | 従来の技術 | PS | 課題 |
MS | 手段 | ED | 効果 | EI | 実施例 |
基本的な演算子
* | AND検索 両者を含む場合を検索 |
B64C39/00/FI*BB64U10/00/FI 自動制御/TX*3D101AA01/FT
|
+ | OR検索 少なくともいずれか一つを含む場合を検索 |
B64C39/00/FI+B64U10/00/FI 自動制御/TX+3D101AA01/FT
|
- | NOT検索 指定した項目を除く検索 |
B64C39/00/FI-B64U10/00/FI 3D101AA01/FT-自動制御/TX
|
[ ] | 大括弧 論理式内で優先的に検索したい範囲をくくる |
[B64C39/00/FI-B64U10/00/FI]*自動制御/TX
|
( ) | 丸括弧 論理式内で共通する部分をくくる |
LED/TI+発光ダイオード/TI ▼ (LED+発光ダイオード)/TI
B64G1/00@B/FI+B64G1/00@C/FI+B64G1/00@E/FI ▼ B64G1/00@(B+C+E)/FI
|
テキスト検索で使える演算子等
? | ワイルドカード 任意の文字(文字列)を示す |
前方一致検索:'ディスプレイ?'/TX 後方一致検索:'?ディスプレ'/TX 部分一致検索:'?ディスプレ?'/TX ワイルドカード検索:'一体型??ディスプレイ'/TX
|
C | 近接検索(順序固定) 指定した文字列の間に指定した文字数以下(0文字含む)の文字が含まれる文字列を検索(指定した文字列の順序固定) |
自動運転,5C,プログラム/TX
|
N | 近接検索(順序不同) 指定した文字列の間に指定した文字数以下(0文字含む)の文字が含まれる文字列を検索(指定した文字列の順序を問わない) |
自動運転,5N,プログラム/TX
|
NOT | 拡張NOT 前の文字列を含む文献から、後の文字列のみを含む文献を除く検索 |
ログ,NOT,アナログ/TX ログ,NOT,(アナログ,ブログ,プログラム)/TX
|
その他の記号等
$ | 階層無視記号 FI、Fタームにおいて下位概念の階層を除外して検索する |
$B64G1/22/FI $3D241AA31/FT
|
@¥ 又は @\ |
分冊識別記号が付与されたFIにおいて、分冊識別記号が付与されていない状態のFIのみを検索する |
B64G1/16@¥/FI
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(6)経過情報をチェックする
FIやFタームを探す際に、キーワードで近いと思われる特許公報が見つかった場合、必ず経過情報をチェックしましょう。経過情報は、キーワードで検索した後に表示される検索結果一覧の各公報の右端や、公報を選択して表示される文献表示の右上にある経過情報ボタンから見ることができます。見つかった文献が特許であり、出願審査請求をしている場合は、有用な情報を得ることができます。
まず、出願情報では、引用調査データ記事欄において審査で見つかった引用文献を見ることができます。見つかった特許公報に近い文献なので、調査対象の発明にも近い可能性が高い文献です。これらの引用文献もチェックしましょう。また、特許公報のFI、Fタームも出願情報で見ることができます(FI、Fタームは文献表示の右上にある検索キーボタンでも知ることができます)。
また、経過記録では、拒絶理由通知が出されている場合は、拒絶理由通知の内容を見ることができます。調査対象の発明にかなり近い特許公報であった場合は、特許性の判断に大いに役立つでしょう。そして、審査において外部の調査機関が調査協力している場合には、検査報告書を見ることができます。専門の調査機関がどのような観点で調査をしたかを確認することは調査を実施するに当たって参考になるはずです。
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