ビジネスモデル特許について



ビジネスモデル特許という言葉は一時期盛んにマスコミに取り上げられましたが、言葉のイメージからその中身については勘違いも多いようです。なお、ビジネスモデルに関しては特許庁サイトの「ビジネス関連発明の最近の動向について」も参照してください。


ビジネスモデル特許とは?

 最初に結論を言ってしまいますが、

”ビジネスモデル自体は特許にはなりません”

 ではビジネスモデル特許とは何なのでしょうか?

特許とは?

 特許制度は発明を一定期間保護する制度です。

 本来、資本主義の下では自由競争が原則なのですが、特許制度は自由競争を規制して一定期間の発明の独占を認めています。これは、発明に独占権を与えることで、国民の発明をする意欲がかき立てられて結果として技術が進歩し産業が発達するだろうという目論見によるものです。即ち、技術的な進歩を期待して発明については産業政策的な見地から独占権を与えることにしているわけです。

ビジネスモデルとは?

 ビジネスモデルの定義はありませんが、ここではビジネスの流れの中における仕事のやり方を意味すると解釈しましょう。仕事のやり方にはビジネスの流れ全体についてのものもありますし、一局面についてのものあります。いずれにせよ、自由競争下においては事業者はいろいろとビジネスのやり方を工夫して市場で競争に勝とうとがんばるわけですから、ビジネスモデルは自由競争における根幹といってもよいでしょう。

ビジネスモデルは発明といえるのか?

 自由競争の根幹であるビジネスモデルと自由競争を例外的に規制する特許制度とは本来相容れるものではありません。実際、従来からビジネスのやり方は特許の対象である発明ではないとされていました。

 ビジネスモデルは発明といえるかどうかをもう少し詳しく見てみましょう。特許の対象となる発明かどうかの判断は、審査基準に載っている類型に該当するかどうかで判断することになっています。ビジネスモデルについては審査基準の類型の中の「自然法則を利用してないもの」に該当する可能性が高いと考えられます。

「自然法則を利用していない」の具体例としては次のようなものが挙げられています。

  • 自然法則以外の法則(例えば経済法則)
  • 人為的な取り決め
  • 数学上の公式
  • 間の精神的な活動
  • 上記のみを利用するもの

 さらに注釈として、「自然法則を利用している部分があっても全体として自然法則を利用していないものはこの類型に該当する」と記載され、逆に、「自然法則以外の法則を利用していても全体として自然法則を利用しているものはこの類型には該当しない」とも記載されています。

 この記載にビジネスモデルを発明とする可能性が隠れています。

 まず、ビジネスモデル自体は人為的な取り決め、人間の精神的活動、自然法則以外の法則を利用するもののいずれかですから発明とはいえません。従って、ビジネスモデル自体は特許にはならないことはおわかりでしょう。

 一方、ビジネスモデルを含んでいても全体として自然法則を利用しているような場合は特許になる可能性があります。

 ところで、近年のIT(情報技術)の発展は目覚しいものがあります。そして、必然的にビジネスモデルにおいてもITを使ったものがたくさん出てきました。

 このIT部分はコンピュータや通信機器等を使いますから当然に自然法則を利用しています。ですから、ITを利用したビジネスモデルの場合はIT部分に焦点を絞れば自然法則を利用したもの、即ち発明にすることが可能です。

ビジネスモデル特許とは?

 以上のことからビジネスモデル特許とは

ビジネスの方法をITを利用して実現する装置・方法の発明に対して与えられる特許

ということができます。つまり、ビジネスモデル特許とはビジネスモデル自体に直接的な独占権を与えるものではありません。しかし、 ITを利用したビジネス手法において不可欠な技術的な仕組みを特許で抑えることで間接的にビジネス手法を独占できることになります。

〔注〕 実際はITを利用していなくても全体として自然法則を利用していれば発明となり特許を受けることは可能ですが、レアケースだと考えてよいでしょう。


ビジネスモデル特許の例

 いまやビジネスモデル特許の古典ともいえる2つの特許について例示します。ビジネスモデル特許のだいたいのイメージをつかんでください。

逆オークション特許

逆オークション特許概念図

具体的な動作

  1. 航空チケットを買いたいユーザが、条件(NY-東京間、1500ドル)とクレジットカード番号をサービス提供者へ送信
  2. サービス提供者は複数の航空券販売業者に、ユーザの送ってきた条件を送信
  3. 航空券販売業者は販売可能価格(1400ドル、1750ドル、1500ドル)をサービス提供者に返信
  4. サービス提供者は返信されてきた販売可能価格から一つ(1400ドル)を選択して予約を完了する
  5. サービス提供者は同時に最初に送られてきたクレジットカード番号により精算を行う
  6. サービス提供者は結果をユーザへ送信する

(参考)メインクレームの内容

 コンピュータを用いて買い手と、複数の売り手の少なくとも一つとの間で取引をする方法であって以下の手順を含む:

(1)申し込み価格を含む条件付購入申し込みをコンピュータへ入力する
(2)この条件付購入申し込みに関連付けられた、クレジットカード口座を特定する支払いIDをコンピュータに入力する
(3)この支払いIDを受けとった後で、複数の売り手に条件付購入申し込みを出力する
(4)この条件付購入申し込みに答えた、一つの売り手の受諾をコンピュータに入力する
(5)前記支払いIDを用いてこの売り手に支払いを行う

マピオン特許

マピオン特許概念図

具体的な動作

  1. サービス提供者は広告を出したい企業に地図情報を提示して広告の入力を促す
  2. 企業は地図の特定位置(サービスの提供場所)を指定して広告を入力
  3. サービス提供者は地図の入力された地図の特定位置に入力された広告のリンクを設定
  4. サービス提供者は消費者に特定位置を図で表した地図を提示し消費者の選択に応じてリンクされた広告を表示

(参考)メインクレームの内容(わかりやすくするために番号等をふったり、段落に分けたりしています)

 コンピュータシステムにより行う広告情報の供給方法であり以下を含む

・広告依頼者に対し、
(1)広告情報の入力を促す
(2)予め記憶された地図情報に基づいて地図を表示する
(3)この地図上において広告対象物の位置指定を促す

・地図上で位置指定された広告対象物の座標を、入力された広告情報と関連付けて逐一記憶する

・広告受給者に対し、
(1)前記地図情報に基づいて地図を表示する
(2)前記広告対象物の座標に図像化した広告対象物を表示し、広告対象物の選択を促す
(3)選択された広告対象物に関連付けられた広告情報を読み出して広告受給者に対して出力する


ビジネスモデルで特許権を取るための条件

 ビジネスモデル特許は一般的には情報処理部分に特許性があります。従って、ビジネスモデル特許はソフトウエア特許の範疇に入ります。

 特許権を取る為の条件は通常の発明と基本的には同じです(「その発明で特許権は取れる?」参照)。ただ、ソフトウエア発明特有の判断手法もありますのでここではソフトウエア部分の判断について説明します。

 詳しくは特許庁ウェブサイト「特許・実用新案審査基準」の「第III部 第1章 発明該当性及び産業上の利用可能性 2.2 コンピュータソフトウエアを利用するものの審査に当たっての留意事項」を参照してください。

発明であること

 上述したようにビジネスモデルの場合は発明に該当するかどうかが一番の問題になります。発明かどうかの判断は次の図のように行います。

ソフトウエア発明の判断フロー

 全く自然法則を利用していないものは最初からだめです。自然法則を利用しているものは当然に発明になります。問題は自然法則を一部に使っているけれども全体として自然法則の利用といえるかどうかがわからないものです。これらは、ソフトウエア発明においては「情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に利用されている」かどうかで判断します。よくわかりませんね。これは審査基準によると、「ソフトウエアとハードウエアが協働した具体的手段であること」と「使用目的に応じた情報の演算又は加工をすることにより、使用目的に応じた特有の情報処理装置又はその動作方法が構築されること」が要求されるということになっています。

 これもわかりにくいですが、どんな風にソフトウエアがハードウエア上で動作を行うのかということが具体的に示されているということと、使用目的を達成するように情報処理がされて特有の情報処理装置(又は特有の情報処理方法)ができていることが必要だということです。

 いずれにせよコンピュータ上で何か目的を達成するために動くソフトウエアは具体的にハードウエア上で動作をして、何らかの情報処理装置もしくは情報処理方法を実現しますから問題は表現上どこまで具体的に書くのかということになると考えればよいと思います。CPUの動作レベルまで書けばまず「情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に利用されている」という要件を満たしますが発明の範囲は狭くなってしまいます。発明と認められつつ、ある程度の包括的な表現で発明を表せるかどうかが鍵になります。審査基準に載っている具体例をみるとある程度のイメージがつかめると思います。

進歩性の判断

 進歩性の判断手法も基本的には他の発明と同じです。ソフトウエア発明の場合は目的を達成するためにある分野で利用されている方法、手段等を組み合わせたり特定の分野に適用したりすることは普通に行われていることなので、組み合わせたり、特定分野に適用することに技術的な困難性がない場合は、顕著な技術的効果等がない限りは進歩性は否定されます。具体的には、次のような場合は進歩性なしとされます。

他の特定分野への適用 ファイル検索システムを医療情報検索システムに適用した場合
周知慣用手段の付加又は均等手段による置換 キーボードによる入力手段にマウスやバーコードを用いる入力手段を付加した場合
人間が行っている業務のシステム化 FAXで受けていた注文を、インターネット・ホームページで受け付けるようにしただけの場合
一般によく知られた事象をコンピュータ仮想空間上で再現すること 電卓のボタン表示や表示部をコンピュータの画面上でグラフィカルに再現しただけの場合
一般によく知られた事実又は慣習に基づく設計上の変更 電子商取引装置において取引成立後に感謝の気持ちを表明するメッセージを付加しているだけの場合

※その他:コンテンツの内容のみに特徴がある場合は通常、新規性が否定されます。


ビジネスモデル発明の抽出方法

 抽出方法というと大げさですが、ITを用いたビジネス方法を考えついた場合に、ビジネスモデル発明を掘り起こす手順を簡単に説明します。

(1) 情報処理部分に特徴があるかどうかを見極める

 まず、ITを用いたビジネス方法には必ず情報の流れがありますから、情報の流れに注目して、どのような情報がどのように処理されるのかを書き出してみます。

 その処理の全体又は一部がある目的を達成するために必要なものであって、特徴のあるものになっていればその部分はビジネスモデル特許になる可能性があります。

(2) 特徴のある情報処理部分を作ることができないかどうかを検討する

 しかし、普通は最初に考えたITを用いたビジネス方法から特徴のある部分が見つけることは困難な場合が多いです。ここであきらめてはいけません。そのビジネスが新しいモノである場合はなんらかの不都合や、顧客からの特有の利便性の要求があるはずです。そのような課題を抽出して、それがITで解決できないかを考えてみてください。解決手法は従来にない問題に対処するためのものなので情報処理に特徴が出せる可能性は高くなります。従って、そのような解決手段はビジネスモデル特許になり得ます。

 なお、ここで注意すべきことは特許を取るためのだけの発明を作らないようにすることです。つまり、特許にするために特異な処理を無理やり入れてもあまり意味がありません。その処理を独占することで競争上有利になるのかどうかという観点を忘れないでください。


ビジネスモデル特許の活用

市場の独占?

 ビジネスモデル特許という言葉から想像するのは特許でビジネスを独占できるということではないかと思います。

 しかし、ビジネスモデル特許は基準が厳しいので内容を限定しないと特許にならない場合がほとんどです。従って、ビジネスモデル特許でビジネスを独占できるケースは極めてまれだと考えた方がよいでしょう。

 とはいえ、ビジネスモデル特許になる発明はなんらかのビジネス上の効果をもたらすものであり、その部分においては競合他社と差別化を図ることができるわけですから無駄ではありません。

 ビジネスモデル特許は、他社との差別化手法を保護して競争力を強化するものだという位置づけで活用するのがよいと思います。

ビジネスモデル発明のカテゴリー

 ビジネスモデル発明はいろいろなカテゴリーで出願することができます。出願時のカテゴリーを間違うと意味のない出願になることもあるので注意しましょう。

 発明は物の発明と方法(製造方法)の発明に分類できます。典型的な情報通信を使ったビジネスモデル発明の場合は次のようになるでしょう。

物の場合 方法の場合
  • サーバ
  • ユーザコンピュータ
  • システム
  • プログラムを記録した記録媒体
  • プログラム
  • サーバにおける処理方法
  • ユーザコンピュータにおける処理方法
  • システム全体での処理方法

ビジネスモデル発明のカテゴリー

カテゴリーの選択は次のことに留意しましょう。

一般に、ビジネスモデル発明ではユーザコンピュータやシステム全体を発明とすることは無駄な場合が多いです。それは侵害は一般ユーザには問えない(業として発明を実施しているわけではないから)ので特許では押さえることができないからです。

ユーザコンピュータが企業の事業用に用いられる場合は業として発明を実施することになるのでユーザコンピュータを発明とすることは有効です。

サーバやサーバにおける処理を発明とすることが有効です。通常、サーバ部分を事業者が行っているので特許権の効力を及ぼすことができます。

特別な専用情報端末がユーザコンピュータとなりうる場合は製造者を侵害とできるのでユーザコンピュータを発明とすることも有効です。

ユーザコンピュータへ特定のプログラムを配布する必要がある場合は、一般ユーザのユーザコンピュータで用いられるプログラムおよびプログラムを記録した記録媒体も有効です。


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