特許事務所の選び方
今はどこの特許事務所もウェブサイトを持っているので、ネットで探すのが一般的でしょう。検索エンジンで検索をしてもよいですし、弁理士会のウェブサイトにある弁理士ナビを使うのもよいでしょう。特許事務所を選ぶ際には次の観点を基準にすると良いでしょう。
場所
多くの事務所はネットのみでの対応はしていないので、基本的には訪問できる場所にある特許事務所を探すのがよいでしょう。工場設備などの大きな発明品で動かせないような物の場合は、来訪してもらう必要があるので、この場合も来訪してもらえる範囲内にある特許事務所を探すことになるでしょう。ネットのみで対応してくれるところが良い場合は、特許事務所のウェブサイトで確認しましょう。
得意分野
多くの弁理士は工学部出身ですので、出身学科によって得意分野が異なることが一般的です。機械系、電気系、化学系、情報系、生物系等依頼する発明に関連する分野を多く扱う特許事務所を探すのが良いでしょう。特許事務所の得意分野は弁理士ナビで調べることができます。いくつかの特許事務所がピックアップできたら、さらに、特許事務所に所属する弁理士名を使って、特許情報プラットフォームでより詳しく見てみましょう。具体的には、特許情報プラットフォームの特許・実用新案検索で検索項目を代理人にして、弁理士名で検索しましょう。多くの特許公報がピックアップされますので、どんな分野の発明を多く扱っているかチェックしましょう。なお、依頼しようとしている発明に極めて近い発明を扱っている特許事務所は良さそうですが、完全に競合するライバル会社の発明を扱っている特許事務所には原則として依頼することができませんので、この点は注意しましょう。
料金
現在は特許事務所は自由に料金設定をすることができますので、ウェブサイトで料金の確認をしましょう。また、良さそうな特許事務所で料金表を載せていない場合は、メールで確認してみましょう。料金は、出願時の費用、拒絶理由応答時の意見書、補正書の費用、特許査定時の成功報酬について知る必要があります。当然書類の内容によって費用が変わりますので、例えば、明細書10枚、請求項5つ、図面5枚でいくらになるか見積を依頼してみると良いでしょう。
事務所の規模
特許事務所の規模は様々で2~3百人規模の事務所から1人事務所まで様々です。大きな事務所なら外国への特許出願や特許訴訟、種々の技術分野への対応など総合的なサービスを受けることができます。では、大きな事務所に依頼するのが良いのでしょうか?ここからは私の個人的な見解ですが、個人発明家や小規模企業には大きな事務所が良いとは限らないでしょう。
会社勤めの人はわかると思いますが、組織の人数が大きくなると仕事ができる人とあまりできない人が混在するようになります。勤続数十年のベテランも居れば、入ったばかりの新人さんも居ます。ところで、大きな特許事務所にとって最も重要な顧客は誰でしょう?それは、毎月、何十件も依頼をしてくれる大企業です。特許事務所でもっとも仕事ができる人は、大企業の特に重要な案件を任されます。では、一度きり、もしくは数年に1回程度しか依頼してこない依頼者からの案件はどんな人が担当する可能性が高いでしょう?少なくとも特許事務所のエースといえるような人が担当する可能性は低いでしょう。
プロが作るのだから誰が作っても特許出願書類にそれほど差はないと思うかもしれません。確かに税理士に確定申告書類を依頼するような場合、作成される確定申告書にそれほど差は無いかもしれません。しかしながら、特許出願書類は作る人によって全然違うものになります。特許出願書類に関しては、どの事務所に依頼するかよりも誰が担当するかの方が実は重要です。こういった観点から、あなたが個人発明家や小規模企業の社長や担当者である場合は、あまり規模の大きくない特許事務所に依頼する方がいいかもしれません。一方で、これから何件も特許出願を行い、外国出願や訴訟も視野に入れているならば、大きな事務所は悪くない選択です。
その他
特許事務所を選択する場合に是非チェックしてもらいたいのは、特許出願書類でどんな文章を書いているかということです。特許情報プラットフォームで特許・実用新案検索で検索項目を代理人にして、弁理士名で検索すると、特許出願書類が載った特許公報を見ることができます。なお、特許出願書類は、弁理士が代理をしていても、弁理士はチェックのみをしていて、実際は補助者が特許出願書類を書いている場合もあるということは知っておくといいでしょう。特許出願書類を読んでみて、何を書いているか全然わからないとか、難しいとか感じたら、ちょっと保留にしてもいいかもしれません。なぜなら、特許出願前に特許出願書類のチェックをあなたがしなけばなりませんが、文章を読んで理解できないなら特許出願書類のチェックがままならないということになるからです。
あと、いくつか特許事務所の候補が挙がったら、実際に特許事務所に行って特許相談をしてみるのも良いでしょう。特許相談だけなら、無料~5000円くらいですので、直接話をしてみて相性が会うかどうかを確認してみてください。
特許事務所に依頼する前の準備
特許出願の代理を依頼する特許事務所が決まったら、とにもかくにも特許事務所に行けばいいと思うかもしれませんが、予め準備していくと、よりスムーズに話を進めることができます。具体的には以下の点に留意してください。
発明を秘密にしておく
特許出願前に発明が世の中に知られてしまうと原則として特許を受けることは出来ません。発明者自ら公開した場合等の一定条件下で新規性喪失の例外規定によって1年以内であれば救済は可能なのですが、公開された発明を見た第三者が改良発明などを公開した場合、それによって特許がとれなくなることもありますから、基本的には発明は特許出願前は公開するべきではありません。ですから、特許事務所に依頼する前はもちろん、依頼後も出願されるまでは発明を秘密にしておきましょう。なお、秘密を守る約束をした人や秘密を守ることが当然であると判断できる人(守秘義務のある人)に対しては発明を教えても大丈夫です。
事前調査
発明に特許性があるかどうかの調査を特許事務所に任せようと思っている場合でも、やはり自分である程度の調査はしておくべきです。調査の結果、全く同じようなものがあって特許出願をする必要がなくなることもあります。事前調査のやり方は、特許調査のやり方を参照してください。ここで、示した調査のやり方で、私の感覚ですが完全に漏れの無い調査を100%の精度とすると、60~70%くらいの精度の調査をすることができるでしょう。特許事務所に調査を依頼する場合は、この精度が70%~80%くらいに上がる感じです。なお、調査会社で数十万円規模の調査をしても100%漏れのない調査をすることはできません。事前調査で見つかった発明に類似すると思われる公報は、プリントアウトして特許事務所に持っていくか、pdfファイルにして事前に特許事務所にメールで送るのが良いでしょう。さらに、特許事務所にも調査を依頼する場合、費用は特許出願費用とは別に発生するのでどのくらいの費用が必要か確認するのを忘れずに。
発明の整理
特許事務所に行く前に、発明を見直して整理しましょう。おそらく実際に発明の試作品ができているか、又は、頭の中に具体的な発明の構想ができているはずです。次のような手順で整理してみましょう。
【1】 今まではどうしていたか
ほとんどの発明は従来品を改良したものです。その従来品は何でしょう?事前調査をしている場合は、事前調査で見つかった発明を含めましょう。全く新しい発明でも、その発明は何かの目的を達成するためのもののはずです。その目的は今まではどうやって達成していましたか?この目的自体も新しいものの場合は、ここは飛ばしてもかまいません。
【2】発明によって何が改善されたか
発明は従来品に対して何かが改善されているはずです。それは何でしょう?そして、その改善は発明が従来品には無いところを持っているからのはずです、それはどの部分で、それがどう働くから改善が実現されるのでしょう?従来品が無い場合でも、発明によって何らかの改善がもたらされているはずです。その改善はどの部分がどう働くから実現されるのでしょう?また、従来品に比べて複数の改善が実現できている場合もあります。その場合は、それぞれの改善点について、どの部分の違いによって、その部分がどう働くから実現されるか整理しましょう。そして、複数の改善点について、どれが重要か順位をつけておきましょう。ちなみに発明によってもららされる改善のことを、特許業界では発明の効果といいます。
【3】バリエーションを考える
発明を考えるときには、ベストな構造ややり方は何かを考えると思います。しかし、ベストではないかもしれませんが、発明と同じ考え方で同じような改善ができる別の構造ややり方が、おそらく存在します。ですから、改善を実現できる部分がピックアップできたら、その部分と同じ原理で違うパタンの構造などが無いかを検討しましょう。なぜ、バリエーションを考えるかというと、特許出願は発明を包括的な表現で表すので、具体例が一つしかないと権利範囲が狭く解釈されてしまうことがある一方で、具体例が複数あると権利範囲を複数の具体例が含まれる広い範囲に解釈させることが可能になるからです。この意味でバリエーションは発明と同じ原理を使うけれども、内容的には離れたものの方が良いということになります。また、複数のバリエーションが特許出願書類に書かれていると、他人による改良発明の出願を防ぎやすくなるという利点もあります。なお、バリエーションが多くなると特許出願書類の枚数が増えて料金も高くなるので、この点はご注意ください。
【4】図や写真、実験データなどを用意する
特別な発明でない限り、発明を説明するための図を書くことができるはずです。ちゃんとした図法にのっとった図である必要はなく、お絵描きで大丈夫です。発明のポイントが理解しやすくなる図であることが大事です。必要であれば拡大した図や、分解した図、断面の図なんかも描くといいでしょう。下手でも特許事務所側できれいな図にしてもらえますので、手書きでかまいません。特許事務所に預けてもよい試作品がある場合は図はなくてもいいでしょう。試作品が持っていけないくらい大きなものであってり、手元に置いておきたいものである場合は、図の代わりに写真で代用してもOKです。写真はいろいろな方向から複数枚撮りましょう。図や写真がデータとしてある場合は、依頼をすることが決まった後で特許事務所にメールでデータを送るようにすると良いでしょう。
また、従来品と比較するために実験を行っているような場合は、実験データを整理しておきましょう。整理したデータはプリントアウトしたものを特許事務所に持参してもいいですし、pdfファイルやExcelファイルを特許事務所にメールで送ってもかまいません。
【5】伝えることをまとめる
以上の作業が終わったら、特許事務所で説明することをまとめましょう。発明の説明として、従来品はどんなものがあるか?従来品に比べてどこが改善されたか?従来品と違う部分がどう働いて改善が実現されたか?改善点が複数ある場合、重要なのはどれか?どんなバリエーションを考えたか?といったことを図や写真、試作品があれば試作品を示しながら伝えましょう。
それから聞いておきたいことを整理しておきましょう。いつくらいに特許出願書類ができそうか?どんな費用がいつ発生するか?支払い時期は?途中で出願手続きを止めた場合に発生する費用は?調査依頼をする場合はだいたいの調査費用と調査結果がでるまでの日数は?等予めまとめておきましょう。
特許事務所に依頼した後
特許事務所に依頼してから特許出願まで
特許出願を特許事務所に依頼した後は、特許出願原稿の原案ができるのを待ちましょう。原案ができるのがあまりに遅いようなら進捗具合を問い合わせるのが良いでしょう。また、待っている間に追加のアイデアを思いついたり、類似する商品を発見した場合は、すぐに特許事務所に連絡して特許出願原稿に反映させるかどうか相談しましょう。
特許出願原稿が送られてきたら、内容を確認することになります。プロが書いているのだから多少わからないところがあっても大丈夫だろうとは思わず、わからない部分があれば聞いてください。特に、特許請求の範囲の文章はわかりにくい場合が多いでしょう。ここは特許権になったときの権利範囲を決める部分ですから、わからないところがあれば、どういう意味か、どういう意図かを聞いて納得するようにしてください。
特許出願後
特許出願後はいくつかの期限に注意しましょう。基本的に特許事務所が期限近くになると連絡してくれますが、事務員のミスやメールの不備などで期限を過ぎてしまうようなこともあり得ます。出願人側でもリマインダーアプリなどで管理しておくのがよいでしょう。
注意すべき期限の一つは審査請求期限です。審査請求は出願日から3年以内に行わなければいけません。特許出願と同時に審査請求を行うこともできます。審査請求期限はよほどの事情がなけれれば救済されないので、期限が過ぎたらアウトです。もう、同じ発明で特許を取ることはまずできません。あと、審査請求に際しては、審査請求料が安くなる減免の対象になるかどうか、審査期間を早くできる早期審査に関する事情説明書の提出をするかどうかも検討しましょう。
次に海外でも特許権の取得を検討する場合は、1年以内に海外で特許出願をするか、日本で国際特許出願をすることになります。1年以内に出願をすると最初の日本の出願日に出願してものとして扱ってもられる優先権を使うことができます。発明が世に出ていないのであれば、出願公開される1年半までに海外出願や国際特許出願をすれば特許取得は可能ですが、優先権を使わない場合は実際の出願日を基準に審査されますので、不利な扱いを受けることになります。そして、出願後に発明の内容を公開しているのであれば優先権を使わなければ海外での特許権の取得はできません。
海外に直接出願する場合は時間が掛かりますので、少なくとも優先権期限の3カ月前くらには特許事務所に依頼をしましょう。国際特許出願であれば、1カ月前くらいでも大丈夫です。
優先権は国内の特許出願にもあって、日本の特許出願に優先権を使うことで1年以内であれば元の特許出願の内容に新しいアイデアを追加した新しい特許出願を行うことができます。こちらの期限にも注意をしておきましょう。
審査請求後は特許庁から審査結果が特許事務所に送られてくるまで待つことになります。早期審査に関する事情説明書を出していない場合は審査結果が出るまで早くて半年、1年以上かかることもあります。最初の審査で特許査定になることは少なく、通常1度は特許庁から拒絶理由通知が送られてきます。拒絶理由に対しては応答期限がありますので、特許事務所からの応答案が遅いようであれば問い合わせましょう。この応答期限は延長が可能ですので、何らかの理由で期限が経過しそうな場合は特許事務所に延長を依頼しましょう。
最後に、特許権が成立したあと特許料の納付期限に注意しておく必要があります。これも特許事務所から期限経過前に連絡があるはずですが、特許権は出願から20年持続しますので、その間に特許事務所が無くなることもあり得ます。特許庁で特許料を銀行から自動で引き落とす自動納付制度もありますので、これの利用も検討すると良いでしょう。引き落とし前に事前に通知がありますので、特許料の納付をそこで止めることもできます。
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